アパレル業界は、衣食住の一つの要素として、なくてはならない存在です。しかし、アパレル業界は近年、様々な問題を抱えていることをご存知ですか?当たり前のように服を買っておしゃれを楽しんでいる背景には、想像もできないような大きな問題が関わっていたり、今後のアパレル業界を揺るがすような事態に直面しているのです。
今回は、アパレル業界が抱える、「人手不足」「少子高齢化」「余剰在庫・大量生産」「オンラインストアと実店舗のバランス」「低価格競争」について、現状と解決策をご紹介します。
アパレル業界は深刻な人手不足が続いています。特にアパレル店員は、給与が低い割に、長時間の立ち仕事に加え、ノルマや売上のプレッシャーがあるため、辞めていく人が多いのが現状です。華やかなイメージがある業界なだけに、そのギャップや現実を知って辞める人が多いため、離職率が高く、人材が定着しづらい職業といえます。
優秀な人材は、実力を評価し給料に反映される外資系のアパレル企業や、一流の接客スキルが求められるラグジュアリーブランドなどに、転職をしたりヘッドハンティングされていくため、有能な人材を確保する難しさに直面する企業やブランドも多いようです。
まだまだ離職率の高さや人材不足が続くアパレル業界ですが、近年は労働環境が改善されてきている企業が多くなってきています。
給料の低さが懸念されるアパレル業界ですが、インセンティブ制度を取り入れて、社員の頑張りや実績に応じて、見合った給与を支払う企業が増えてきています。そうすると社員の働くモチベーションも上がり、接客スキルの向上や売上アップにもつながるため、双方にメリットが生まれます。
また、ライフステージの変化に対応するべく、時短勤務や子育て支援を積極的に行う企業も増えてきています。産休や育休の取得実績をアピールしている企業は、女性が安心して長く働くことができる環境が整っているでしょう。最近は、男性でも育休を取得する人も多く、差別や偏見のない風通しの良い職場環境が増えてきています。
近年のアパレル業界は、「子どもができたら辞める」「結婚したらキャリアアップはできない」というマイナスイメージが払拭されてきており、ライフステージが変化するからといって、仕事を辞めたりキャリアアップを諦める必要はなくなりつつあります。
アパレル業界の課題として、少子化問題もあげられます。少子化はずいぶん前から懸念されている問題ですが、若い世代が少なくなれば、その分働き手も減少すると同時に、消費者のニーズも減退していきます。
衣料品は生涯必要不可欠な存在ですが、アパレル業界が目指す「ファッショナブル」「トレンド」という意味では、若い層がターゲットとなるため、その層が減っていくとなると需要がなくなる可能性が高くなります。
少子化問題はアパレル業界以外にも、社会全体に大きく影響することですが、若い層が減り高齢層が増えるという人口構造を踏まえて、新しいビジネスモデルや戦略を考えることが必要になります。
アパレルの市場規模が縮小していくことはある程度覚悟しておかなければいけませんが、その中でも消費者のニーズを見極め、過去の概念や実績に縛られすぎず、柔軟に変化していく時代に突入したといえるでしょう。
アパレル業界で問題視されているのが、余剰在庫(売れ残り商品)や大量生産による環境への負荷がかかること。余剰在庫は年間で約15億着ともいわれているため、社会問題の一つとして大きな課題となっています。
アパレル業界に限らず、様々な業界でSDGsへの取り組みが積極的に行われている今、余剰在庫や大量生産は企業の利益を圧迫するだけでなく、環境にも大きな影響をもたらしているのが現状です。
洋服を1着作るだけでも、CO2の排出や膨大な水を使用するといわれており、それだけでも環境への負荷は計り知れません。ただ、近年のアパレル業界はトレンドアイテムを低価格で販売するファストファッションが主流のため、1着あたりのコスト削減のために大量生産をしている企業が多いのです。また、流行の予測を見誤ってしまい、在庫が大量に残ってしまうことも余剰在庫を生み出してしまう要因の一つ。抱えきれなくなった在庫は廃棄されるため、環境に大きな負荷がかかっていることがわかります。
このような現状を改善する取り組みは、多くの企業で実施されています。シーズンごとに新作が販売されるアパレル業界ですが、売れ残った商品は割引価格で販売されたり、アウトレット店舗で販売を行って在庫をさばいています。
また、最近は「オフプライスストア」に参入する企業も増えてきています。アウトレットは自社ブランドの売れ残りやB品を販売するのに対し、オフプライスストアは様々な企業やブランドの余剰在庫を販売する部分に違いがあります。
消費者のニーズを最優先させることや利益を第一に考えることは、企業として当然の方針ではあるものの、結果的に違う弊害が出てきたり、環境への負担がかかってしまっては意味がありません。アパレル業界の将来性を考えた時、単に利益の追求だけでなく、地球規模
で様々な取り組みを考えていく必要があるでしょう。
消費者としても、アパレル業界と環境問題が密接に関係していることへの理解を深め、服の再利用やサステナブルへの知識を身につけることも大切です。
コロナ禍をきっかけに、服をオンラインで購入する人が多くなりました。対面で接客を受けて服を購入することが一般的だった時代から、自宅にいながら好きな時間にインターネットを開いて服を購入することができるようになった今、その利便性を重視して、店に行かなくなった人も多いでしょう。また、店よりもオンラインの方が低価格で購入できたり、自分の住んでいるエリアにはないブランドの服を購入できる点も魅力の一つです。
そのため、実店舗をもつブランドでもオンラインストアに力を入れるようになり、オンライン限定商品やオンライン独自のサービスを提供する企業も増えてきています。実店舗を維持するための人件費やその他のコスト面を考えると、企業としてもオンラインストアを強化する方がメリットが多い場合もあります。
ただ、実店舗だからこそ得られるメリットがあるのも事実です。アパレル店員から接客を受けて、コミュニケーションを取って買い物をしたり、店の雰囲気やBGM、ディスプレイなど、ブランドの世界観が伝わるのは実店舗ならでは。そのような付加価値や買い物体験ができるのは、オンラインストアでは感じにくい部分です。
オンラインストアと実店舗は、どちらにもメリットとデメリットがあります。それは、企業側にも消費者側にもいえることで、どちらかが生き残ればOKという問題でもないため、双方を融合させた取り組みをするのが理想的です。
例えば、「ショールーミング」という販売方法があります。ショールーミングは、実店舗で商品を直接手に取ってサイズや質感などをチェックして、購入はオンラインで行います。
企業側は在庫を確保するスペースが不必要になり、消費者側も買い物で失敗をすることがなくなる上に、荷物を持ち帰る必要がなくなるため、どちらにもメリットがあり、近年注目されている販売方法です。
今後、アパレル業界における実店舗の数は縮小することが予想されますが、実店舗の良さを活かしつつ、消費者のニーズを最大限に反映できる取り組みが求められるでしょう。
最近は服に費やすお金は、減少傾向にあるといわれています。それもそのはず、ファストファッションのような、低価格でおしゃれを楽しむ人が増えてきているため、服に対しての出費は減ってきていると自覚している人も多いのではないでしょうか。また、近年の物価高や増税により、節約志向になっていることも、服が売れない要因になっています。
そのような背景から、企業も低価格競争に乗り出しており、今後はますます競争がし烈化していくことが予想されます。
アパレル企業として生き残るためには、消費者のニーズや時代に合った販売戦略を考えることも大切ですが、ブランドとしての価値やオリジナリティがなければ、消費者は離れていきます。「ファストファッションも好きだけど、◯◯のブランドも好き」という人も一定数いるため、そのような人たちを飽きさせることのない取り組みをしていかなくてはいけません。
そのためには、他社と差別化を図ることや、ブランドの信頼を勝ち取ることが必須です。ハイブランドのような高級な価格帯にも関わらず人気があるのは、富裕層の需要が高いことも考えられますが、なによりもブランドとしての地位や信頼があるから。品質の良さや商品のデザイン性、また店員の一流の接客やサービスなどにおいても、確かな実績や信頼があるため、長きに渡って支持されているのです。
アパレル業界においても、低価格競争に乗りだすことも一つの方法ですが、ブランドとしての価値を高めることや、オリジナリティを出すことが、激しい競争の中で生き残るためのポイントとなるでしょう。
アパレル業界の抱える問題や現状をご紹介しました。消費者の立場では把握できない問題や、アパレル店員として働く上では解決できない大きな問題もあります。
だからといって、何もできないわけではなく、例え小さなことでも個々で意識を変えたり、環境問題や様々な課題から目を背けない姿勢が大切になります。
まずはアパレル業界の現状をしっかり受け止め、明るい将来を実現するために、日頃から高い意識と行動力を持って取り組むようにしましょう。